第63話 小春日和しぶきがまず最初に、身軽な足取りで窓サッシに足をかけて身体を持ち上げた。「よいしょ…っと。」ひらりと校舎の室内に足を下ろして着地する。そして次は樹生、と振り返って手を差し伸べた。「はい。掴まって。」「う、うん。」樹生がおずおずとその手を取ると、しぶきはぐいと抱き上げるように引っ張った。「きゃ、」「おっと。」無事に校舎内に侵入できたが、その強いはずみで樹生はしぶきを押し倒すように体重をかけてしまう。しぶきはしりもちをつきながらも、樹生を支えた。「ごめんね、大丈夫!?」慌てて、樹生はしぶきから身を起こす。「平気平気。樹生、ごはんちゃんと食べているの?」「え?」「超軽い。もっとふくよかな方が好みだぞ。」「ご…ごめん?」樹生は困惑したように小首を傾げながら、疑問形で謝った。その様子を見て、しぶきはおかしそうに笑う。「冗談だよ。どんな姿でも、今の樹生が一番いい。」そう言うと肩から零れた樹生の髪の毛を一房手に取って、口付けるのだった。しぶきは昔からキス魔だったことを樹生は思い出した。その度に顔を真っ赤にする樹生を、しぶきは更に「かわいい」と言ってとどめを刺すのだ。「あは。かわいいね、樹生。」ほら。今日も、また。下履きの靴を脱いで二人はペタペタと足音二つ響かせながら、校舎を探検する。「懐かしい。よくこの空いてる教室で、お弁当食べたね。」しぶきは目を細めて、当時を思い出しているようだった。その思い出に樹生も思いを馳せる。「そうだったね。二人でよく、おかずの交換したよね。」「そうそう!たしか樹生は、私のお母さんの卵焼きが好きで。」「しぶきちゃんは、私の唐揚げが好きだったのよね。」思い出を共有しては、二人でくすくすと笑いあった。こんなにも柔らかく、愛しい時間が過ごせるようになるなんて思いもしなかった。もしかしたら辛い記憶にだけとらわれ過ぎて、案外悪い青春時代ではなかったのかもしれない。そんなことを、都合よく思った。家庭科室、理科室は危険な物があるからか鍵が掛かっていた。「残念。」かたん、と錠に阻まれて扉は開かない。それはそれとして仕方がない。次に行こう、としぶきは再び樹生の手を取って歩き出した。いつだってしぶきは、樹生の知らない世界の扉を開けてくれる。しぶきがいなければ、どんなに狭い世界で生きていただろうと思う。怒られることがあっても、二人なら平気だった。反省して「怒られちゃった」と舌を出して、二人で笑ってそれで終わりだ。しぶきはいつだって樹生を笑顔にしてくれた。その分、樹生もしぶきに笑顔を返したかった。「一階は見終わったかな。二階に行こう。」「うん。」階段をゆっくり昇っていく。途中の踊り場の窓から温かい太陽に光が注がれていた。光は筋のように伸びて、白く床を照らす。ふと立ち止まって天を仰げば、ちらちらと埃が光を反射して輝いていた。「気持ちいいねえ。」「そうだね。ね、しぶきちゃん。私ね、昔、小春日和って春の季語だと思っていたの。あれって晩秋から初冬にかけての季語だったのね。」自分の勘違いを笑い話にしようと話したら、しぶきが驚いたように目を張った。「そうなの!?私、今の今まで春だと思ってたよ!」どうやら、しぶきにとっては笑い話ではなかったらしい。樹生は驚きつつも、笑ってしまう。「そうだよー。って言っても、私も知ったのは割と最近だけど。」「やだー。カルチャーショックだよー。他人に間違いを話す前に教えてもらってよかった。」「案外、この年でも知らないことって多いよね。」「本当に。知らないことだらけだよ。樹生が隣にいるだけで、こんなに楽しい気持ちになれるのも知らなかった。昔は隣にいてくれるのが普通だったから、気付かなかったよ。」しぶきの言葉に、樹生も深々と頷いた。その通りだと思う。失わないと気付けないなんて、何て愚かだったのだろう。しばらく二人は、その小春日和を味わっていた。温かい光を浴びる行為は、空に手を伸ばす植物のようでとても健康的だった。ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)応援したユーザーはいません機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。 一部のAndroid端末ではカクヨムに登録すると作者に思いを届けられます。ぜひ応援してください。アカウントをお持ちの方はカクヨムに登録して、気になる小説の更新を逃さずチェック!アカウントをお持ちの方はカクヨムに登録して、お気に入り作者の活動を追いかけよう!アカウントをお持ちの方は キングダム631話の感想と考察. Please stand by, while we are checking your browser...Completing the CAPTCHA proves you are a human and gives you temporary access to the web property.If you are on a personal connection, like at home, you can run an anti-virus scan on your device to make sure it is not infected with malware.If you are at an office or shared network, you can ask the network administrator to run a scan across the network looking for misconfigured or infected devices. さて、前回のお話で仰々しい呪文が登場して、これはいろいろ伏線を織り交ぜて冥界編が長期化するのか?と思わせたところで終わりました。 Twitterでもこの展開には疑問を呈するファンが大勢いました。 最新話ネタバレ 【ガイシューイッショク:9話】ネタバレ|みちるの野望と広海の提案 2020年1月21日 sasayan.
A new life begins for Kitahara Iori as he begins his college career near the ocean in Izu city, full of excitement for his new life. Fast loading speed, unique reading type: All pages. 小; 中; 大; 特大; 背景色. コミック・漫画 RAW RAR ZIP 無料 ダウンロード ... (92.63 MB) C.m.b. Fatest and latest HQ rawmanga and mangaraw updates are here 【ネタバレ】湯神くんには友達がいない 1巻 あらすじ、ネタバレ【ネタバレ】ワールドトリガー 18巻 あらすじ、ネタバレ右から1・3・4・2以外ありえぬわ!その可能性が高いですね。マンガ、ゲームに関する情報をまとめていこうと思います。情報がお役に立てれば幸いです。こちらのページにも、情報を纏めて…
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